今年一番の夏

長坂ICの出口を左に折れ、そのまま走ると清里高原有料道路に入った。8月の上旬だというのに、インパネの外気温センサーは13度を示していた。やがて国道141号線、通称清里ラインに突き当たり、そこを左折してしばらく走ると小さな案内板が見えた。目的のヒュッテまでは15分ほどだ。
彼が「明日、あのヒュッテでお昼をしよう」と電話してきたのはきのうだ。その前日、ふたりが再会した高校の同窓会で話題になったばかりだった。
彼の、現地で落ち合おうという提案を奈津は快諾し、東京からレガシィ・ツーリングワゴンをとばしてきたのだ。そして十年間のブランクを埋めるために、彼との食事にのぞむのだ。
高原ロッジを通り過ぎ、右に分かれる道を回り込むとすぐにヒュッテに続く道が現れる。ゆっくりとシフトダウンしながらハンドルを右に切ると、突然ヒュッテの全容が視界に飛び込んできた。
駐車場にはトーチレッドのコルベットが停めてあった。彼の車に違いないと、奈津は直感した。
そしてその横のスペースにはコーンが置いてあり、駐車できないようになっている。奈津のためのスペースだ。
コルベットの窓には『1F喫茶店』とだけ書かれた小さなメモが挟まれてた。
相変わらずだわ、と奈津は思った。
いつの間にか微笑んでいる自分に気づいた奈津は、コルベットのタイヤをつま先で軽く蹴ってから、大きく深呼吸をした。
今年一番の夏の日になる瞬間だ。

2003年8月19日