マロニエの花の咲く頃

京と書いて、ミヤコと読む。彼女の職業はモデルだ。つい一年前まではどこにでもいる、ごく普通のモデルだった。地方の大学を卒業後、家族の反対を押し切って上京、小さなモデルクラブに所属した。そして銀座にある海外ブランドのブティックで受付のアルバイトをしながらモデルスクールに通った。その間、コンポジットを持っては何度もオーディションに行き、時々はモデルとしての仕事をしてはいたものの、活動といえる程度のものではなかった。その彼女に幸運が訪れたのは一年前の春だった。ブティックの本社から視察に訪れていたフランス人女性、エレーヌに英語での応対をほめられ、モデルをやってみないかと誘われたのだ。京はモデルであることを説明すると、それならマネージメントを任せないかと言った。京の華やかな顔立ちと英語力を見込んだのだ。エレーヌは本国に了承をとりつけると、日本でのPR担当に京を起用するよう命じた。京はそのブランドのイメージキャラクターとして女性誌を中心とした多くのメディアに露出するようになった。
5月のある日、京は銀座で撮影をしていた。一年前エレーヌから「絶対に成功するのよ」と励まされたとき、店の外にマロニエの赤い花が咲いていたのを思い出した。
一年間の契約が切れる最後のその日、奇しくも銀座でのロケを終えると、翌日はエレーヌと一緒に新たな事務所を立ち上げる。
「はい、そこで1枚もらいます」というカメラマンの声にポーズをとりながら、マロニエの花を見た。
「これは私たちの幸運の花ね、エレーヌ!」
「Absolutely, Miyako!」

2004年5月15日